「株式分割をすると株は増える?」「分割されると株価にどう影響するの?」
と、疑問に感じていませんか?
「株式分割」という言葉は、経済ニュースや投資の場面でよく登場します。しかし、具体的な仕組みや株式分割を行う理由などについて詳しく知らない人も多いでしょう。
そこでこの記事では、株式分割の仕組みや企業が実施する理由、株価への影響、投資家にとってのメリット・デメリットなどについてわかりやすく解説しています。実際の上場企業の株式分割事例も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
株式分割とは?1株を分けて単価を下げる仕組み

株式分割とは、1株を複数に分割することです。これにより、株式の総数は増え1株あたりの単価は下がります。
例えば、1株1,000円の株式を1: 2の割合で2株に分割する場合、分割後の1株あたりの価格は500円となり、100株を保有していたとすると、分割後は200株になります。
株式の数が増える一方で、1株あたりの価格は分割した割合に応じて下がるため、株式分割をしても全体の価値は変わりません。そのため、保有している株が株式分割された場合は株式数や株価は変化しますが、合計の評価額は分割前と同じです。
また、企業の価値を表す時価総額(株価に発行済株式数をかけたもの)も変動しません。
このように株式分割は、株の総額は変えずに、1株を小さく分ける仕組みです。
株式分割を行う理由

企業が株式分割を行う目的はいくつかありますが、その中でも代表的なものが「株式の流動性を高めること」です。株式分割により株の単価が下がることで新たな投資家が増え、その結果、売買が活発化することが期待できます。
また、スタンダードからプライムへなど「株式市場の変更」を目的としている場合もあります。株式市場の変更には、株主数や株式数などで一定の要件を満たす必要があり、株式分割することで、その要件をクリアしやすくなるためです。
上記の理由に加え、東京証券取引所(東証)が投資単位の引き下げ要請をしていることも、近年企業が株式分割を行う背景の一つです。
2022年から、東証は個人投資家が参加しやすい環境を整えることを目的に、投資単位を「50万円未満」へと引き下げるよう企業に要請しています。また2025年4月には、最低投資金額を「10万円程度」へ引き下げることを求める方針を発表しました。東証のこうした動きが、企業の株式分割の実行を増加させています。
このように株式分割は、株の単価を下げ流動性を高めることをはじめとし、株式市場の変更や東証からの要請への対応のためなど、さまざまな目的を持って行われています。
株式分割で起こる株価への影響は?多くは上昇の要因となる

株式分割を行うと、一般的に株価は上昇しやすくなります。株価が手頃になることで投資のハードルが下がり、新規の投資家が増えるためです。
また、実際に株式分割をしたときだけでなく、発表の段階でも株価が上がりやすいとされています。これは、株式分割によってこれからさらに投資家が増えるだろうという期待感が影響するためです。そのほか、株式分割は投資家から「企業の成長のシグナル」とポジティブに捉えられ、投資家の注目を集めやすくなることも株価上昇の要因の一つです。
一方、株式分割後に株価が下がることもあります。1株あたりの単価が下がったことで株を売りやすくなるためです。例えば、100万円で1単位を持っていた投資家が、3分割で保有株数が3単位に増えると「一部を売って利益を確定させよう」と考えるケースも出てきます。一部売却を希望する人が新規の買い需要を上回る場合、株価は下落するでしょう。
また株の単価が下がることで、短期売買を目的とする投資家の参入が増えることもあり、その場合は株価の変動幅が大きくなる可能性もあります。
一般的には株価上昇の材料となる株式分割ですが、市場動向によっては株価は上昇しないケースもあるため、市場全体の流れを見ることが大切です。
投資家にとっての株式分割のメリット3つ

株式分割は、投資家にとってもいくつかメリットがあります。ここでは、以下の主な3つのメリットを紹介します。
- 株の単価が下がり購入しやすくなる
- 流動性が上がり好きなタイミングで売買しやすくなる
- 配当を据え置いた場合は配当額が増える
一つずつ解説していきます。
株の単価が下がり購入しやすくなる
株式分割により、1株あたりの単価が安くなることで株式を購入しやすくなります。いままで手を出せなかった高額な株も、分割することで購入へのハードルが下がるでしょう。
例えば、1株5万円の株式を100株単位で購入するには、少なくても500万円が必要です。しかし、1株を10個に分ける株式分割が行われた場合、100株単位でも50万円で購入できるようになります。
このように、株式の価格が下がることで、投資家は株を以前より手軽に購入できるようになります。
流動性が上がり好きなタイミングで売買しやすくなる
株価が下がることで株式の流動性が高まり、投資家は好きなタイミングで株の取引をしやすくなります。流動性が高い=市場に参加している投資家が多いため、売りたいときにすぐに売れ、買いたい時にすぐに買える状態になるためです。
株式の売買が容易であることは、利益確定や損切りを希望のタイミングで行えることから、投資家にとってプラスの要素となります。
このように株式の流動性が高まることで株取引の自由度が増え、投資家は柔軟に売買できるようになります。
配当を据え置いた場合は配当額が増える
株式分割において、配当額を据え置いた場合は受け取る配当額が増えます。
株式分割では、1株あたりの配当は分割の割合に応じて変更されることが一般的です。しかし、企業によっては配当を変更せず据え置くケースがあります。配当を据え置いた場合、分割で増えた株式数に応じ、受け取れる配当金は実質的に多くなります。
このように、株式分割後にも配当額が維持されることで、増えた株数の分だけ配当額が多くなります。
投資家にとっての株式分割のデメリット

株式分割は投資家にとってメリットがある一方、デメリットも存在します。ここでは株式分割における2つのデメリットを押さえておきましょう。
- 変動幅が大きくなるリスクがある
- 単元未満株が生じる可能性がある
順番に解説していきます。
変動幅が大きくなるリスクがある
株式分割をすると、デイトレーダーなどの短期的な利益を追求する投資家が増え、株価が乱高下するリスクがあります。分割により株式の単価が下がることで株式購入の障壁が低くなり、短期的な売買もしやすくなるためです。
また株式分割後、企業の実力以上に株価が急騰すると、その後利益確定売りが集中して株価が急激に下落することもあります。
さらには、保有している株式数が増えると一部の投資家は売却に動くことから、株価が下落する可能性もあるでしょう。
株式分割は株価上昇に繋がることも多い一方で、変動幅が大きくなったり下落したりするリスクがある点も理解しておくことが大切です。
単元未満株が生じる可能性がある
株式分割を行った結果、保有する株数が中途半端になり、一部が単元未満株になることもあります。単元未満株とは、売買単位(通常100株)に満たない株のことです。
単元未満株が生じると、通常の株式市場で売買できなかったり株主優待が受けられなかったりするため、投資家は取引や優待の面で制限を受けることになります。
このように、分割比率によって扱いづらい単元未満株が発生するケースでは、投資家にとっては不便さを感じる要因となります。
株式分割の事例3つ

実際に株式分割を実施した、以下3社の事例を紹介します。
- ファーストリテイリング
- 株式会社NTT
- ソニーグループ
ファーストリテイリング
株式分割の実施年月 | 2023年3月 |
目的 | 投資家層の拡大/流動性の向上 |
分割比率 | 1株→3株 |
実施前の株価 | 80,000円前後 |
参考:株式分割 | FAST RETAILING CO., LTD.
ファーストリテイリングは2023年、約20年ぶりに株式分割を行いました。最低投資額は800万円から約270万円に減少。その後株価は順調に上昇し、2024年10月に上場来高値の55,310円を付けました。
また、株式分割により1株あたりの配当金は年間680円から230円(3株で690円)となり、実質的に増配しています。
NTT(日本電信電話)
株式分割の実施年月 | 2023年7月 |
目的 | 流動性の向上/投資家層の拡大 |
分割比率 | 1株→25株 |
実施前の株価 | 4,100円前後 |
参考:株式分割 | IR資料室 | 株主通信『NTTis』 | 株主通信 NTTis 2023.06 | 株主・投資家情報 | NTT
NTTの株式分割では、40万円以上もした株式の最低購入金額は17,000円台となりました。
若年層を含む幅広い投資家が参入しやすくなり、40代以下の株主の割合が大きく増加。株主数は、2024年6月末には分割公表前の2.5倍となり、過去最高を更新しました(※)。
※参考:株式会社NTT 中期経営戦略
ソニーグループ
株式分割の実施年月 | 2024年10月 |
目的 | 流動性向上/投資家層の拡大 |
分割比率 | 1株→5株 |
実施前の株価 | 13,000円前後 |
ソニーグループが実施した株式分割では、最低投資金額は100万円以上から30万円弱へと大幅に減少しました。3年近く停滞していた株価は分割後に上昇に転じています。
まとめ
この記事では、株式分割とは何か、株式分割における株価への影響や投資家にとってのメリットやデメリットなどについて紹介しました。
株式分割は、企業と投資家双方にメリットをもたらす仕組みです。企業にとっては新たな投資家を呼び込みやすくする効果があり、投資家には、より手軽に投資しやすくなるという利点があります。
その一方で、株価が下がったり変動幅が大きくなったりするリスクがある点には注意が必要です。
もし株式分割を発表した企業を見つけたら、株価の動きや市場の反応に着目してみると良いでしょう。
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